病気は選びません。でも、今まで漢方で治療したことがない病気の方が来ると、新たに勉強しなくてはならないので、とても時間がかかるというのが悩みです。内科の領域だけではなく、外科手術後のトラブル、婦人科、小児科、皮膚科、眼科、耳鼻科など、広範囲です。整形外科は東儀先生の専門なので、僕は安心です。いろいろな所で診てもらったけれど、良くならないのでここに来ましたという方が良くなった時は、漢方を学んで来て良かったと思う瞬間です。
僕達が漢方を積極的に使う理由のひとつは、西洋薬の副作用がもたらす害が非常に大きいからです。サリドマイドやスモン、薬害エイズ、子宮頸がんワクチン、イレッサなど痛ましい例が報告されて来ました。もちろん、漢方薬にも重大な副作用があることは承知しています。当院でも経験した間質性肺炎という病気は怖い副作用です。そのため、オウゴンという生薬を含んだ漢方薬を飲んでいただいている患者さんには、定期的に血液検査をお願いしています。
僕が長らく携わっていたがんの治療は、副作用のオンパレードでした。いかにして抗がん剤を「大量投与」できるようにするかが、重要な関心事であった時期がありました。さすがに今では、できるだけ副作用を回避する方法をとるようにしていますが、「抗がん剤」という名の「細胞毒」の薬剤を身体に入れるのですから、患者さんにとっては大変なことなのです。それで漢方で何とかならないかと考えたわけです。
がんの漢方治療という場合、抗がん剤の副作用を少なくするために漢方を併用する使い方が主流です。でも私の願いは、いかにして漢方をがんの治療のメインストリートに押し上げるかにあります。今の結論から言えば、日本で使われているエキス剤と言われるところの漢方薬では、とても主流にはなりません。保険では承認されていないような冬虫夏草(とうちゅうかそう)や半枝蓮 (はんしれん)、白花蛇舌草 (びゃっかじゃぜつそう)などが自由に使えなければなりません。それは自費の煎じ薬になってしまいます。そこで考えたのが、少量抗がん剤治療と漢方薬の併用です。最近は、糖尿病薬や高脂血症の薬、ビタミンB製剤、EPA/DHA製剤、肝臓の薬など、臨床で使われて来た薬の中に、抗がん作用のある薬が見つかっています。しかし、漢方薬をこのような使い方しかできないことは、非常に不満で、せっかくの漢方薬を生かしきれていないジレンマがあります。いつか日本にも、厚労省の中に「伝統薬推進局」ができて、漢方が患者さんのために、大きな前進を遂げる日が来ることが私の夢です。
2016年、中国では10年間の検討を経て「中国医薬法」が制定されました。これにより、すべての総合病院に「中医学科(日本で言うところの漢方科)」を設置することになりました。うらやましい限りです。